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伊ヶ谷地区海上より見る三宅島 撮影2003年4月10日三宅支庁提供
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見解
 

都立病院経営委員会報告
「今後の都立病院の経営形態のあり方について」に対するコメント


2007年12月13日
第7回東京都庁職員労働組合執行委員会

はじめに

 11月26日東京都病院経営本部は、都立病院経営委員会報告「今後の都立病院の経営形態のあり方について」を発表した。その趣旨は「さまざまな課題は残されるが、都立病院の経営形態は、制度的には一般地方独立行政法人(非公務員型)が最も柔軟な経営形態である」というものである。今回の報告を受け、病院経営本部は今年度中に「第2次都立病院改革実行プログラム」を発表するとし、地方独立行政法人化(非公務員型)にむけた具体的スケジュールを策定しようとしている。
 都庁職は「都立病院改革マスタープラン」がスタートした2001年より、都庁職委員長を責任者とする「保健・衛生・医療『改革』対策委員会」を設置し、都立病院のリストラを許さず都民医療を守るための取り組みを続けてきた。今回発表された都立病院経営委員会報告の内容は、都民の貴重な財産であるすべての都立病院を都立直営から切り離すだけでなく、都立病院が担ってきた行政的医療をも失いかねない重大な問題であり、同時に職員として大きな労働条件の変更が伴う問題であることから、都庁職としてコメントを発表するものである。

1.拙速な結論を導き出した都立病院経営委員会

 病院経営委員会(委員長:大道 久日大教授)は、病院経営本部からの諮問を受け、医療関係者、学識経験者、公認会計士など9名で構成し、今年の3月22日から11月1日まで5回の会議を持ち、「今後の都立病院の経営形態のあり方」について検討をしてきた。
 この会議には、当初から都立病院の経営に責任を持つ院長の参加は除外されていたため、「都立病院院長会」から「都立病院院長会の代表」を審議に参加させるよう強い要望が出されるという異例の事態のなか、都立病院院長は会議のオブザーバーとして経営委員会の参加が許されるという形でスタートした。経営委員会は、1回目から3回目までは、殆どが病院経営本部からの資料説明で、実質審議は4回目・5回目のわずか4時間あまりという短いものであった。
 この委員会のなかでは「都立病院が行政的医療」を担っていくと言いながら、医療環境の変化に対応した合理的で迅速な対応が必要として、都立病院のあり方よりも効率的な運営と採算が重視される議論に終始した。第4回目の委員会で東大名誉教授(前松沢病院長)が「行政的医療が担保されたので、病院経営者がより自由に采配できる地方独立行政法人(非公務員型)がいいのではないか」との発言を皮切りに、急激に地方独立行政法人か公営企業法全部適用の2者択一的議論に進み、都立直営の議論は全くされないという様相になった。この事態に対し、オブザーバー参加の院長から「PFIを導入することで手一杯のスケジュール。これ以上の運営形態の変更は無理である。」「神経難病の専門病院と一般総合病院を一緒のベースにのせて採算を論じられてもそれは無理がある」などの発言がされた。にもかかわらず、誰の目にも「拙速な結論」と映る今回の進め方は、最初から病院経営本部の主導で「地方独立行政法人(非公務員型)」の結論を誘導したといっても過言ではない。

2.「地方独立行政法人(非公務員型)」の結論を急いだ背景

 11月12日、 総務省の公立病院改革懇談会(座長:長隆・公認会計士)は「公立病院改革ガイドライン(案)」を発表した。その内容は、「自治体が08年度中に作成する公立病院改革のガイドラインとして、公立病院を核とした地域医療の統合・再編をおこなうことや一般・療養病床利用率が3年連続70%未満の病院を病床数の削減や診療所へ転換すること」などを提言している。また、「各病院が3年以内に経営効率化を進め、一般会計からの補てんも含めて黒字に転換し、赤十字病院など公的医療機関との統合・再編や独立行政法人化など経営形態の見直しを行う場合は、5年以内の実現をめどにプランを作る」よう求めている。
 そして、11月14日政府の第27回経済財政諮問会議では、「社会保障制度と財源のありかた」の議論の中で、増田総務相より「公立病院改革ガイドライン(案)」について資料提供と議論がされている。現在、国の独立行政法人(101法人)の廃止・見直しが検討されており、当然特定独立行政法人国立病院機構も、廃止・民営化、非公務員化も含めた見直しの対象となっている。
 このような国の動向を受けて病院経営本部は、都立病院経営委員会の議論を国の方針の先取りとなる方向で誘導し、報告をまとめさせたものと言える。

3.都立病院経営委員会報告の問題点と都庁職見解

 (1)基礎的自治体と住民から猛反対を受けた「都立病院改革マスタープラン」への総括が全く行われていない

 まず「都立病院改革マスタープラン」に基づく都立病院統廃合計画は、16あった都立病院を8カ所に廃止・統合・公社化・民営化するというものであった。地域住民や患者さんの大きな反対にもかかわらず母子保健院は廃止され、大久保病院・多摩老人医療センター・荏原病院の3病院は保健医療公社に委託され、豊島病院と老人医療センターの統合・民営化計画は、計画そのものの矛盾と基礎的自治体や住民の反対で完全に破綻した。また、清瀬・八王子・梅ヶ丘の3小児病院統合計画も、地元住民の存続運動の影響もあり、当初の予定通りには進んでいない。 東京都は、これまで進めてきた「都立病院改革マスタープラン」の総括を何らすることなく、「今後の経営形態の検討」を提起すること自体、自治体として無責任であると言わざるを得ない。特に公社化によって、医師や看護師が退職し人材確保に大きなダメージをうけ、患者サービスの低下を余儀なくされている。
 また高知医療センターのPFIが、理事長の汚職やオープン初年度の大巾な赤字で、必ずしも順調に推移していないことや近江八幡病院のPFIの失敗などの問題などには全くふれずに肯定的評価から議論をスタートしていること自体問題である。

(2)「地方独立行政法人化」(非公務員型)への経営形態変更は、自治体病院としての役割を放棄するに等しい

 管理者権限について「人事・給与・服務の面で、公務員の制約にとらわれず事業運営の自立性が高まる」「財政面で機動性、弾力性が向上し経済性が発揮できる」として地方独立行政法人がよいと結論づけている。しかし、先に独法化された国立病院の例を見てもわかるように、毎年運営交付金を削減し、効率化追求、独立採算の運営が最優先されることから、不採算部門は切り捨ての対象とならざるを得ず、結果として自治体病院が果たすべき役割を放棄せざるを得なくなる事は明らかである。経営委員会では、医師の確保対策として、給与体系の設定や柔軟な人員配置が組織の判断でできることをメリットとして強調しているが、その裁量は経営者の手腕にかかっているとしており、収益を上げなければ処遇の改善の保障はどこにもない。また、病院は様々な職種が業務を担っており、医師だけ優遇すればよいというものではなく、専門職の人材確保にとっても問題である。医師・看護師不足が深刻になっている現在、自治体として責任を持った医師・看護師をはじめとする専門職の人材育成・確保対策が喫緊の課題と言いながら、経営状態が確保対策と直結する不安定な地方独立行政法人を、選択すること自体誤りである。また、公務員からの身分切り替えを余儀なくされる地方独立行政法人(非公務員型)は、大きな労働条件上の変更を伴うものであり、都庁職として容認することはできない。

(3)「地方独立行政法人化」(非公務員型)は議会の報告・承認義務なし、住民の監視対象外に。

 今回、長崎県江迎町と宮城県のたった2つの先行事例しかない「地方独立行政法人化」(非公務員型)<注:宮城県立こども病院は一度民営化してから地方独法(非公務員型)化>を選択したのは、国の「構造改革」路線に基づく公務員削減をねらったものに他ならない。石原都政は「行財政改革実行プログラム」のなかで、3年間で4000名の定数削減を打ち出し、今年はその2年目にあたる。「地方独立行政法人化」(非公務員型)は、独法のなかでも最も民営に近く、議会の事業に対する監視・監督が後退するおそれがあり、その結果住民の声は届きにくくなる。また、議会の代わりの評価委員会が中期目標の到達如何によっては、「業務の継続性の必要性がない」と「解散」させることもでき、住民サービスを切り捨てるための濫用も起りかねない。そして、理事長は天下りのポストとなり、国が独立行政法人を整理統合する方針を示しておきながら、地方自治体には独立行政法人を増やす矛盾した方針をとっていること自体、医療に責任を持たない国の姿勢をあらわしている。

4.都庁職は都立病院の解体につながる「地方独立行政法人化」に反対し、都民医療を守るために奮闘する

 現在都側は、2009年度から老人医療センターと老人総合研究所を統合した上で、「地方独立行政法人化」(非公務員型)に移行させ、豊島病院を保健医療公社に移管することを発表している。
 また、すべての都立病院を「地方独立行政法人化」(非公務員型)にしようとしているだけでなく、保健医療公社病院の民営化も検討している。診療報酬制度のマイナス改定で、病院の倒産や閉院が全国各地で起り、病院や病床数の減少が如実になっている。東京でも北区東十条病院(350床)が10月閉院した。さらに、後期高齢者医療制度の導入などを前に、「365日24時間必要な時に安心して病院にかかれる」日本の医療体制が崩壊しつつある。このような情勢のもと、都庁職は自治体病院としての役割をきちんと果たすために、都立病院の変質・解体につながる「地方独立行政法人化」に反対し、関連支部と連携しながら広範な都民の方々との共闘を大切にし、都民医療を守るために奮闘するものである。

以上

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